説明

安定で長期持続性のsiRNA発現ベクター及びその使用

本発明は、哺乳動物において標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させることができるsiRNA発現ベクターに関し、該ベクターは:細菌の複製起点と細菌の選択マーカーM1とを含む細菌カセット;適切なプロモーターの制御下に真核細胞を選択するためのマーカーM2を含む真核細胞選択カセット;抗原EBNA-1の少なくとも1つのフラグメント、少なくとも1つのフラグメントFR及び領域DYADの少なくとも1つのフラグメントを含むEBVカセット;並びに阻害又は消滅させる標的遺伝子に対応するsiRNAをコードする少なくとも1つの領域を哺乳動物細胞での転写を調節するための要素(該調節要素は哺乳動物細胞でsiRNAを転写できる少なくとも1つのプロモーターと転写ターミネーターとを含む)の制御下に含むsiRNA転写カセットを含む。本発明は、このような発現ベクターの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA干渉(interference)の分野に関し、より具体的には安定で長期持続性の(long-lasting)干渉RNA (siRNA)発現ベクター及びその使用に関する。
本発明は、よって、上記のベクターを含むヒト又は非ヒト細胞及び非ヒトトランスジェニック動物、並びにsiRNAの活性を評価するため及び医薬として及びヒトの治療におけるsiRNAの妥当性を検査するためのそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
mRNAに相補的な21〜25ヌクレオチドの二本鎖RNAの小型フラグメントは、それらが真核細胞に導入された場合に、該mRNAを破壊することにより、対応する遺伝子の発現を大きく阻害できることが示されている(概説のために、Biofutur (33), Voorhoeveら (34)を参照)。遺伝子発現の特異的な阻害又は消滅(extinction)のこの現象は、RNA干渉(RNAi)とよばれ、多くの分野において有利な展望を開く。特に機能ゲノム学及び製薬研究の分野では、siRNAとよばれる小型干渉(small interfering) RNA (又はサイレンシング誘発(silencing inducing) RNA)は、新規な遺伝子の機能の同定、並びに標的遺伝子及び候補医薬の選択のそれぞれにおいて有用である。さらに、siRNAは、医薬として直接用いることもできる。
【0003】
つまり、ウイルス又は細胞のタンパク質をコードする転写産物に特異的でありかつ対応するタンパク質の産生を阻害できるsiRNAは、記載されている。
より具体的には、RNA干渉のプロセスは、いくつかの工程を実質的に含み、21〜25ヌクレオチドの二本鎖フラグメント(siRNA)への二本鎖RNAの長いセグメントの切断の進行により開始されると考えられる。DICER酵素(特定のdsRNAエンドヌクレアーゼファミリーのRNアーゼIII)により産生されるこれらの二重siRNA (siRNA duplex)は、siRNAの一方の鎖に相補的な標的RNAを認識して切断し、よって特定のmRNAの分解をもたらすRISC、すなわちRNA誘導サイレンシング複合体に組み込まれる。
【0004】
siRNAは、低濃度で作用し、特にRNAポリメラーゼIII (Pol III)プロモーターから細胞内で発現され得る。
現在、RNA干渉技術を用いて、哺乳動物細胞、特にヒト細胞における遺伝子の発現を消滅させるか又は阻害するための3つの異なるアプローチが存在する。(1) 二重siRNAのトランスフェクション、(2) 非ウイルス発現ベクターのトランスフェクション、及び(3) 組換えウイルスでの感染。
【0005】
(1) 二重siRNA
多くの文献に、二重の二本鎖RNA (siRNA)の特にトランスフェクションによる直接投与について記載されている[(Soutschek J.ら (27); Elbashir SM.ら (3); Bantounas I.ら (28)]。このアプローチは非常に効果的であるが、以下の問題点を有する。(i) 二重siRNAは不安定であり、一般的に高価である;(ii) トランスフェクションは一過性であり、よって中期的及び長期的な研究が可能にならない;(iii) 非常に多数の細胞についての研究を意図するならば、このアプローチはその経費により不可能とされる(例えば多タンパク質複合体の精製研究の関係において)。
【0006】
(2)及び(3) 組み込み(Integrative)非ウイルス発現ベクター及びウイルスベクター
インビボでのsiRNAの短い寿命のために、この主題について研究する研究者の種々のチームは、哺乳動物細胞におけるsiRNAのより安定な発現を可能にするベクターに基づく系の開発を進めている。
この目的を持って、ある著者らは、組み込み発現ベクター(プラスミド) (Barquinero J.ら (30))又はウイルスベクター(実質的にレトロウイルス、レンチウイルス又はアデノウイルス)を開発している。これらのベクターは、適合可能であるという利点を有する。つまり、細胞は、トランスフェクションされるか(プラスミド)、又は感染される(ウイルスベクター)。
【0007】
これらの(プラスミド又はウイルス)ベクターは、siRNA配列の発現について同じストラテジを用いる。ベクター内で、DNA配列はヘアピン構造を有することとなるRNA (shRNA、小型ヘアピンRNA)をコードする。タンデム構造(先天的に(a priori)より効果的でない)も構想される。shRNA構造の発現の場合、実行されるストラテジは、例えば、未来のsiRNAに相当するセンス配列、それに続くスペーサーアーム又はループ及び該siRNAのアンチセンス配列、それに続くT残基の組(最終のsiRNAでのポリU)のクローニングを含む。このshRNA配列のインサイチュー合成の間に、スペーサーアームの存在により、ヘアピン構造(shRNA)の形成が導かれ、このことは未来のsiRNAのセンス配列及びアンチセンス配列の対形成を可能にする。ヘアピン構造は、内因性RNアーゼIII (DICER)により認識され、これは機能的siRNAを生じるようにヘアピン構造を切断する。
【0008】
これらの非常に小さいRNA構造の効率的な転写を可能にするために、RNAポリメラーゼIIIに特異的なプロモーター(Pol IIIプロモーター)、例えばU6、H1又はtRNAプロモーターを用いることが推奨されている。RNA Pol IIIは、4〜6個のチミジンの配列により完璧に規定される転写終結部位を有する小型の非コーディングRNA、例えばtRNAの転写に特化されていることに注目すべきである(Sui G.ら (35))。しかし、このことは、RNA Pol II特異的プロモーター、例えばヒトCMV IEエンハンサー/プロモーター(サイトメガロウイルス最初期遺伝子エンハンサー/プロモーター)又は改変されたCMVプロモーター、例えば文献(Dubois-Dauphin, 2004 (36); Huら 2004 (37); Liuら 2004 (38), Satoら 2003 (39))に記載されるようなものの使用を排除しない。
【0009】
発現ベクター:つまり、Brummelkampら (5)は、機能的siRNAのインサイチューでの合成をもたらすようにヘアピンRNA (shRNA)の転写を導くことができるPol III HIプロモーターを含む組み込みプラスミド(pSUPER)を記載している。しかし、この組み込みプラスミドは、以下の問題点を有する。
これは、一過性の阻害又は消滅を得ることを可能にしない。
これは、細胞当たり非常に高いコピー数で、トランスフェクションされた細胞に存在する;これは、RNAi装置(machinery) (例えばRISC複合体)を飽和でき、有害反応を引き起こす(6)。
これは、ゲノムのあらゆる位置に組み込まれ、よって有害反応に加えて、寄生性の影響を誘導し得る。
【0010】
このプラスミドは、その後、該プラスミド内に原核選択マーカー(例えばジェネティシン)を挿入するように改変されている。しかし、ほとんどの著者らは、これらのベクターを一過性のトランスフェクション試行においてのみ用い、数日の培養後のクローンについてはわずかしか記載されていない。(7〜9)。
【0011】
ウイルスベクター:これらのベクターは、トランスフェクションするのが困難な標的細胞の感染を可能にする(Dykxhoorn D.ら (29); Barquinero J.ら (30))。このようなウイルスベクターは、効率的なターゲティングと、標的細胞での先天的に中期的な発現とを可能にする。マウスにおけるインビボアプローチでのそれらの利点も強調されている。しかし、これらの組換えウイルスの大きな欠点は、ほとんどの実験室は、当該技術の規則の下でこれらのウイルスを用いて作業する備えがないので、深刻な安全性の問題を生じることである。よって、siRNAを評価するためのこれらの使用は、常に有利なわけではない。
【0012】
つまり、安全性の理由からウイルスベクターが除外されると、培養でのヒト細胞におけるRNA干渉試行は、二本鎖RNA又は組み込みプラスミドの一過性のトランスフェクションに主に基づく。この関係において、安定なクローンを単離することは困難である。よって、siRNAの長期間の評価を目的として標的の広範な破壊を得るために、安定な発現に対して真の必要性が存在するが、効率的に培養に維持することができるクローンはほとんどなく、非常に限られた時間(2〜3日)のみである(7〜9)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
よって、本出願は、RNAiの有効性を著しく増大させ、ヒト細胞において標的遺伝子の有効で特異的で非常に長期間の阻害又は消滅を可能にするベクターを提供することを目的とする。
実際に、特にsiRNAはタンパク質レベルで非特異的影響を誘導することが可能であり、siRNAを用いて得られる結果が常に予期されるものではない限り(19)、siRNAにより媒介される下流の効果を確認する効果的な系を有することは重要である。
【0014】
このような状況を回避するために、本発明者らは、従来の構築物よりも、特に、以下の観点において実際の必要性によりよく適する新規な構築物を開発した。
- 培養での哺乳動物細胞におけるsiRNAの非常に長期的で(数ヶ月)安定な発現を可能にする;
- 細胞装置の飽和に関して有害反応を防ぐことができる;
- 遺伝子発現の(部分的又は全体的な)喪失の表現型における結果の長期的な(数ヶ月)研究のためのツールを得ることを可能にする;このことは、siRNAプローブを試験し、非常に長期間(数ヶ月)の間培養で維持された細胞に対するこれらのプローブの生物学的な結果を分析することを可能にする。このことは、治療目的のために構築されたウイルスベクター(レトロウイルス、レンチウイルス又はアデノウイルス)にsiRNAプローブを導入する前に、siRNAプローブの妥当性を検査する方法を実行することを可能にする;
- 培養で長期間維持された細胞に対するヒト病変を模倣することを可能にする(ノックアウトにより得られる細胞よりも特にフレキシブルなモデル);及び
- 実質的に同一のゲノム、すなわち小型のshRNA配列によってのみ異なるゲノムを有するヒト細胞を初めて得ることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
よって、本発明の主題は、哺乳動物細胞において標的遺伝子(内因性又は外因性)の発現を阻害又は消滅させることができるsiRNA発現ベクターであり、該ベクターは:
(1) 細菌の複製起点と細菌の選択マーカーM1とを含む細菌カセット、
(2) 真核細胞、特に哺乳動物細胞のための選択マーカーM2を、適切なプロモーターの制御下に含む、真核細胞での選択のためのカセット;
(3) エプスタイン−バーウイルス核抗原1 (EBNA-1)の少なくとも1つのフラグメントと、ファミリー・オブ・リピート(FR)の少なくとも1つのフラグメントと、2回回転対称(double symmetry) (DYAD)領域の少なくとも1つのフラグメントとを含むEBVカセット、及び
(4) 阻害又は消滅させる標的遺伝子に対応するsiRNAをコードする少なくとも1つの領域を、哺乳動物細胞内での転写のための調節要素の制御下に含むsiRNA転写カセット、ここで該調節要素は、哺乳動物内でのsiRNAの転写を可能にする少なくとも1つのプロモーターと転写ターミネーターとを含む
を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記のベクターの有利な実施形態によると、細菌カセット(1)は、抗生物質(アンピシリン、カナマイシン、リファンピシン、テトラサイクリン)に対する耐性のためのマーカー、及び栄養要求性マーカー(TRP1、URA3)からなる群より選択される細菌の選択マーカーM1を含む。
【0017】
上記のベクターの別の有利な実施形態によると、真核細胞での選択のためのカセット(2)は、抗生物質(ハイグロマイシン、ジェネティシン、ネオマイシン又はG418、ピューロマイシン、及びゼオシン、ブラスチシジン(blasticidin))に対する耐性のためのマーカーからなる群より選択される真核選択マーカーM2を含む。
【0018】
この実施形態の有利な態様によると、上記の選択マーカーM2は、HSVチミジンキナーゼプロモーター及びSV40プロモーターからなる群より選択される適切なプロモーターの制御下にある。
【0019】
EBVカセット(3)の要素は、より具体的には以下のものである。
EBNA-1核抗原
EBNA-1タンパク質は、多数のリピートの存在を特徴とする珍しい一次配列を有する641アミノ酸を含む。そのうちの1つ(アミノ酸90〜328)は、Gly-Gly-Alaリピートのみを含む。全体のEBNA-1配列は必要でない;つまり、本発明によるEBVベクターは、B95-8ウイルスのGly-Gly-Alaリピートの717 bpのうち700が欠失されているYatesら(57)のベクターp205に由来する。これらのベクターは、全EBNA-1遺伝子を有するホモログよりも効率的に複製する。
【0020】
感染潜伏期複製起点(OriP):
OriPは、960 bpにより分離されている2つのシス配列:領域1又はファミリー・オフ・リピート(family of repeats) (「FR」配列)と、領域2又は2回回転対称配列(Dyad配列)を含む1800 bpの領域である(Yatesら (40), Sugdenら (41))。
【0021】
ファミリー・オフ・リピート(「FR」)
FR配列は、30 bpモチーフのほぼ完全な20個のコピーからなり、各コピーはEBNA-1ウイルスタンパク質のための結合部位を含む。EBNA-1についてのコンセンサス結合配列は(Rawlinsら 1985 (42)):
5'AGATTAGGATAGCT.ATGCTACCCAGATAT3'
である。
発現ベクターにおいては、EBNA-1タンパク質のみの存在下では、FR領域は、HSV-TKのような弱いプロモーターの活性を200倍に増加させ得る強力な転写エンハンサーとしてふるまう(Reismanら 1986 (43))。さらに、FR領域は、複製効率及び細胞特異性の決定に関与する。この領域は複製には絶対的に必要であるが、EBNA-1の存在下でこの配列単独では、EBVプラスミドの複製を可能にしない(Luptonら 1985 (44); Reismanら 1985 (45))。
【0022】
転写エンハンサーの機能及びゲノムをエピソームの形で維持する機能は、30 bpモチーフの最小限の配列又は6〜7のリピートを含むFRの種々の領域同士の間で高度に協力的なプロセスである(Wysokenskiら 1989 (46))。リピートモチーフの数がより小さいと、プラスミドはエピソームの形ではもはや維持されず、起源のプラスミドのヘッド−トゥ−テイルの多量体の形である高分子量組換えベクターの形成をもたらす構造的再構成の著しいプロセスをもたらす。これらのプラスミドは、染色体外で維持されるのに充分なリピートモチーフの数が見出されている(Chittendenら 1989 (47))。
【0023】
FRモチーフは、EBNA-1の結合の後に、複製フォークについてのバリアとして作用する一次複製終結(primary replication termination)要素を有する(Krysanら 1991 (48))。さらに、FR配列は、プラスミドが複製しなくても核質内で保持される特性をプラスミドに与える(Krysanら 1989 (49))。
【0024】
2回回転対称(Dyad)領域
140 bpのこの領域は、65 bpの2回回転対称領域内に対称に位置するEBNA-1に対する2つの結合部位を有するが、該結合部位はステム(31 bp)/ループ(3 bp)構造を形成する。2つのその他の部位は、この領域の境をなす。
【0025】
EBNA-1タンパク質のDyad配列との結合は、この要素の近くの複製の開始を促進する(Rawlinsら 1985, 上記; Reismanら, 1985, 上記; Gahnら (50))。この複製起点は、特にその3'末端において、ヌクレオソーム様構造がない(Sextonら (51))。Dyad配列の3'末端又は上記配列の全体の欠失は、EBVゲノムをエピソームの形で維持することを完全に破壊する(Chittendenら, 1989, 上記)。
【0026】
oriPにおいて転写のための要素(FR)と複製開始の要素(Dyad)とが近接することは、EBVベクターにおけるDNAの主に一方向性の複製をもたらす。FR配列に向かって進行するフォークは、このレベルで停止するが、反対方向に向かうフォークはプラスミドに沿って進み、FRで待っているフォークに遭遇する(50)。さらに、転写の方向及び複製フォークの移動を連動させ得ることが提案されている。
【0027】
上記のベクターの別の有利な実施形態によると、哺乳動物細胞でsiRNAを転写可能なプロモーターは、RNAポリメラーゼIII (タイプ1、2又は3)のプロモーター又はRNAポリメラーゼIIにより認識されるプロモーター、例えばヒトCMV IEエンハンサー/プロモーター(サイトメガロウイルス最初期遺伝子エンハンサー/プロモーター)又は改変されたCMVプロモーター、例えば文献に記載されるようなもの(Dubois-Dauphinら (36); Huら (37); Liuら (38); Satoら (39))である。
【0028】
これは、siRNAをコードする領域と機能的に連結されている。siRNAをコードする配列は、転写開始部位(例えばCCG)のすぐ下流又は転写開始部位から最大でも20塩基対しか離れていない。有利には、その他の調節配列は、上記のプロモーターと関連し得る。誘導又は改変され得る配列(テトラサイクリンにより、例えばTetON/OFF、IPTG若しくはラクトースにより、例えばlacOオペレーター、温度により、又は化学的若しくは物理的遺伝毒性物質により)、又は任意にRNAポリメラーゼタイプIIプロモーターを選択することによる組織特異的配列;この場合、shRNAタイプの構造がマイクロRNA (miRNA)の構造内に導入されてRNAポリメラーゼタイプII-依存性プロモーターによるsiRNAの合成を可能にするshRNA-miRハイブリッド配列が好ましい(Sylvaら, Second-generation shRNA libraries covering the mouse and human genomes. Natural. Genet. 2005; 37, 1281〜1288)。
【0029】
上記の転写カセットは、以下のものも含む。
- siRNAをコードする配列の下流に、チミジンの配列、好ましくは4〜6個のチミジン、より好ましくは6つの連続するチミジンを、構築物のセンス鎖内に好ましくは含む転写終結部位、及び
- クローニングのための選択系;この趣意で、原核プロモーター(T7、EM7など)、続いてLacZ遺伝子のアルファフラグメント(LacZ'又はLacZアルファ)が構築物に導入されるのが有利であり、細菌内での選択を可能にする。この目的のために選択された宿主細菌での補完の後に、起源のベクターを保持する細菌は青色になり、LacZ'がshRNA配列で置き換えられた組換えベクターを保持するものは白色になる。
この系は、shRNA配列の挿入の間の選択の基準を制定する。
【0030】
この実施形態の有利な態様によると、上記のRNAポリメラーゼIIIプロモーターは、H1 RNA、U6 snRNA、7SK RNA、5S、アデノウイルスVA1、Vault、RNAテロメラーゼ及びtRNA (Val、Met又はLys3)プロモーターからなる群より選択される。
【0031】
上記のプロモーターは、好ましくはH1プロモーターである。このプロモーターは、ヒトRNアーゼPのRNA成分であるH1 RNAの発現を制御する。
H1プロモーターについて選択される配列は、次のとおりであり:
【化1】

NCBIデータベースにおいてアクセッション番号X16612で参照されるH1遺伝子及びそのプロモーターの配列145〜366に相当する。
【0032】
本発明は、よって、siRNAを産生できる種々の構築物に関する。これらの構築物において、細菌選択マーカーM1及び真核選択マーカーM2をそれぞれ含むカセット(1)及び(2)は、好ましくは同じ方向にある。
【0033】
本発明の目的のために、用語「構築物」とは、ポリヌクレオチド及びベクターの両方を意味することを意図する。
本発明による構築物は、RNAi装置を飽和せず、かつトランスフェクションの2週間後に95%を超える細胞において標的遺伝子の消滅を誘導する(しかし、このことは、選択されたsiRNA配列に依存する)複製可能な構築物であるが、組み込みプラスミド(選択マーカーを保持する)でトランスフェクションされた細胞は、同じ条件下で50%未満の消滅を誘導する。
さらに、そして驚くべきことに、上記の構築物は、1年を超える期間の培養における種々のタイプの哺乳動物細胞(例えばHeLa、RKO、MRC5-V2)において、標的遺伝子の消滅を維持する(非常に良好な再現性)。
【0034】
siRNAをコードする領域は、標的遺伝子と同一の領域を含む二本鎖RNA分子に相当する。siRNAは、標的遺伝子を特異的に消滅又は阻害できる。siRNAの選択について必要な情報は、多くの文献により提供される[Gilmore IRら (31); Dykxhoorn D.ら, 上記 (29); Chalk AMら (52)]。
【0035】
本発明による構築物は、好ましくは、ヘアピン前駆RNA (shRNA)からsiRNAを生じる。
【0036】
本発明による構築物は、種々のトランスフェクション法により標的細胞に導入できる。
- 該構築物を、それらが標的細胞膜を横切ることを可能にする物質と関連させる:輸送体(ナノ輸送体)、リポソーム調製物、カチオンポリマー又はカルシウム(化学的方法)、又は
- 物理的方法により該構築物を細胞内に導入する:エレクトロポレーション又はマイクロインジェクション、又は
- 上記の2つの方法の組み合わせのいずれかが用いられる。
【0037】
標的遺伝子は、興味のあるいずれの遺伝子であり得る。
【0038】
遺伝子の消滅の目的は、治療上のもの及び特定の遺伝子の機能研究の両方、又は該遺伝子の消滅に関連する全ての意味であり得る。よって、消滅は表現型を改変できる。
【0039】
本発明においては、14個の標的遺伝子がすでに試験され、そのうち5つがより詳細に研究されている(XPC、XPA、kin17、DNA PKcs及びXRCC4)。これらの全ての研究は、本発明による構築物の利点を示す。
これらの遺伝子の2つを、共通遺伝子系細胞でのこれらの遺伝子の消滅による長期の結果を評価するために、それらの消滅がヒトの症候群を模倣するように選択した。
XPA (Genbankアクセッション番号NM-00380)及びXPC (Genbankアクセッション番号NM-0004628)タンパク質は、ヌクレオチドの除去−再合成修復(NER)の間の大量のDNA損傷の認識及び除去に必須である。これらのタンパク質は、以下の病変に関連する:日光に対する遺伝的過敏性、色素性乾皮症。
【0040】
XPCタンパク質は、全体的なゲノム修復(global genome repair) (GGR)の間のDNA損傷の認識の最初の工程に必須である(12)。XPAタンパク質は、前切り込み複合体(preincision complex)の形成に参加する(13)。
XPA/XPCタンパク質とkin17タンパク質(Genbankアクセッション番号NM-012311) (HSAKIN17)との間の遺伝学的相互作用が存在するので(14)、KIN17遺伝子の消滅のためのベクターも作製した。KIN17遺伝子は、DNA複製及びDNA損傷に対する細胞応答に関与するジンクフィンガー核タンパク質をコードする(15)。
【0041】
ヒトタンパク質XRCC4 (Genbankアクセッション番号NM#022550)は、げっ歯類のタンパク質「X線修復交差相補タンパク質4 (X-ray repair cross-complementing protein 4)」のホモログである。DNA PKcsタンパク質は、DNA依存性キナーゼタンパク質(DNA PK;Genbankアクセッション番号NM_006904)の触媒サブユニットに相当する。XRCC4は、NHEJ組換え又はV(D)J組換えによるDNAの二本鎖破損についての修復プロセスにおいて、DNAリガーゼIV及びDNA PKと協力して作用する。XRCC4タンパク質が細胞の生存に必須であり、天然の変異体が存在しないことが注目される。
よって、これらの2つのタンパク質は、XPA-及びXPC-タンパク質関連経路に依存しないDNA修復経路の必須の要素である。
【0042】
本発明の主題は、上記で定義されるベクターで改変された真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞でもある。
【0043】
本発明の主題は、上記で定義されるベクターで改変された細胞を含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物でもある。
【0044】
本発明の主題は、遺伝子の発現を阻害又は消滅させるための、上記で定義されるベクター又は上記で定義される細胞の使用でもある。
【0045】
本発明の主題は、上記で定義されるベクターと、少なくとも1種の医薬的に許容される担体とを含むことを特徴とする医薬組成物でもある。
【0046】
本発明の主題は、標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させることができるsiRNAの活性を評価するための方法でもあり、該方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(a0) 少なくとも1つの哺乳動物細胞を本発明によるベクターでトランスフェクションし、
(b0) 真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地で上記の細胞を培養し、
(c0) 上記の耐性な細胞の表現型を、トランスフェクションされていない細胞の表現型との比較により分析する。
【0047】
本発明の主題は、標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させるように設計されたsiRNAの集合(collection)の活性を評価する方法でもあり、該方法は:
(a1) 同じ標的遺伝子を有する種々のsiRNAが挿入された本発明によるベクターのライブラリを作製し、
(b1) 細胞を上記のライブラリの上記のベクターでトランスフェクションし;各細胞又は各細胞の組は異なるベクターでトランスフェクションされ、
(c1) 上記の細胞を、真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地で培養し、
(d1) 上記の耐性な細胞の種々の表現型を分析する
ことを含む。
【0048】
siRNAの活性を評価するための上記の方法の有利な実施形態によると、表現型を分析するための工程(c0)又は工程(d1)は、標的遺伝子の発現の検出及び/又は定量を含む。
siRNAの活性を評価するための上記の方法の別の有利な形態によると、上記の方法は、工程(c0)又は工程(d1)の後に、選択マーカーM2に耐性な細胞を選択するための要素を欠く培地中で細胞を培養し、復帰による出発表現型の回復を評価するための工程(c'0)又は工程(d'1)も含む。
【0049】
本発明の主題は、siRNAの全体的な活性を評価するための、本発明による細胞の使用である。
実際に、培養で長期間維持され得る本発明による細胞は、siRNAプローブを試験して、全体的なこれらのプローブの生物学的な結果を分析することを可能にする。このことは、siRNAプローブを医薬として有効に使用することを決定する前に、該プローブの妥当性を検査することを特に可能にする。
【0050】
本発明の主題は、タンパク質を発現する遺伝子の阻害又は消滅を含む、疾患を治療できる分子のスクリーニングのための方法でもあり、該方法は:
(a2) 少なくとも1つの哺乳動物細胞を、上記の疾患を模倣できるsiRNAを含む本発明によるベクターでトランスフェクションすることにより上記の疾患を研究するためのモデルを作製し、
(b2) 上記の細胞を、真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地で培養し、
(c2) 上記の耐性な細胞の表現型を、トランスフェクション前の細胞の表現型との比較により分析し、
(d2) 培養培地に、スクリーニングされる物質又は物質のライブラリを加え、
(e2) 上記の細胞の表現型の改変を評価し、
(f2) 通常の表現型を回復し、よって上記の疾患を治療できる分子を選択する
ことを含む。
【0051】
分析される表現型は、標的遺伝子及びその消滅による効果に依存する。
本発明による細胞又は生物の表現型を評価する能力、例えば分子が細胞又は生物の表現型を調節する能力は、種々のスクリーニング、評価及びsiRNAの妥当性検査の関係において有利である。
【0052】
一般に、本発明の目的のために、用語「表現型」は、生物又は細胞の観察可能な特徴を意味することを意図する。言い換えると、表現型は、生物又は細胞における遺伝子発現の明示である。
【0053】
より具体的には、表現型は、遺伝学的プロフィールと環境との相互作用に起因する細胞又は生物のいずれの特徴に相当し得る。それは、疾患又は感染のいずれの明示でもあり得る。それは、所望される生理的特徴でもあり得る。それは、生化学的な、分子の、細胞の又は組織の特徴であり得る。評価は、遺伝子レベルで、特に、研究されるsiRNAにより標的される遺伝子以外の特定の遺伝子の発現が調節されるかを探索することにより行うことができるか、又は評価は、得られる遺伝子発現、例えば不活性化される代謝経路により産生されるタンパク質、炭水化物若しくは脂質又はその他の分子の発現の減損に特異的な代謝物の検出により行うことができる。
【0054】
受容体、シグナル変換タンパク質、膜チャネル又は酵素の活性は、よって、分析できる。細胞レベルにおいて、以下の機能を評価できる:移動(migration)、接着、脱顆粒、食作用、アポトーシス、分化、走化性;細胞の形質転換又は腫瘍性特徴の獲得も分析できる。
【0055】
本発明による種々の方法を、マルチウェルプレートで、ハイスループットで有利に行うことができる。
【0056】
本発明の主題は、上記で定義されるベクター又は上記で定義される細胞と、標的遺伝子の発現を検出及び/又は定量するための手段(抗体、特にウェスタンブロッティング又は免疫細胞化学標識の後)とを含むことを特徴とするキットでもある。
【0057】
本発明の主題は、
(1) 細菌の複製起点と細菌の選択マーカーM1とを含む細菌カセット、
(2) 真核細胞、特に哺乳動物細胞のための選択マーカーM2を、上記で定義される適切なプロモーターの制御下に含む真核細胞での選択のためのカセット、
(3) エプスタイン−バーウイルスの核抗原1 (EBNA-1)の少なくとも1つのフラグメント、ファミリー・オブ・リピート(FR)の少なくとも1つのフラグメント及び2回回転対称(DYAD)領域の少なくとも1つのフラグメントを含むEBVカセット、及び
(4) H1プロモーターと、2つの可能な方向の1つで選択される2つのクローニング部位
を含むことを特徴とする上記で定義されるベクターの作製のための中間物質でもある。
【0058】
上記の中間物質の有利な実施形態によると、2つのクローニング部位は、Bgl II/Hind IIIである。
上記の中間物質のこの実施形態の有利な態様によると、H1プロモーター及びクローニング部位は、直列方向(direct orientation)にあり、選択マーカー M2はハイグロマイシンであり、上記の中間物質はpBD665又はpEBV-siDとよばれる。
【0059】
上記の中間物質のこの実施形態の有利な態様によると、H1プロモーター及びクローニング部位は逆(又は反対)方向にあり、選択マーカーM2はハイグロマイシンであり、上記の中間物質はpBD631又はpEBV-siRとよばれる。
【0060】
上記の中間物質の別の有利な実施形態によると、これは、原核プロモーター、特にT7原核プロモーターと、それに続くLacZ遺伝子のアルファフラグメント(LacZ')を含むクローニングのための選択系を含む。
この実施形態の有利な態様によると、H1プロモーター及びクローニング部位は逆(又は反対)方向にあり、選択マーカーM2はハイグロマイシンであり、上記の中間物質はpBD751又はpEBVsiR-LacZ' (又はpEBVsiR-LacZ'-Hygro)とよばれる。
【0061】
この実施形態の有利な態様によると、H1プロモーター及びクローニング部位は逆(又は反対)方向にあり、選択マーカーM2がピューロマイシンであり、上記の中間物質はpBD899又はpEBVsiR-LacZ'-Puroとよばれる。
【0062】
後者の2つの中間物質はクローニングベクターであり、組換えベクターを保持する細菌を標的することを可能にする。クローニング効率は100%に近い。さらに、これらの2つのクローニングベクターpBD751及びpBD899は相補的であり、二重のノックダウンを産生することを可能にする。
【0063】
本発明の主題は、
- 上記で定義される中間物質を調製し、
- 適切なshRNAをコードするDNA配列を、選択されるクローニング部位に挿入する
ことを含む、本発明によるベクターを作製する方法でもある。
【0064】
上記の態様に加えて、本発明は、本発明の主題である方法の実施及び本出願の配列を示す表及び添付の図面に言及する以下の記載から明らかになるその他の態様も含む。添付の図面において:
- 図1:siRNAベクターの遺伝子地図。クローニングスキーム。いくつかのクローニングストラテジが構想できる:間接的クローニング(図1A)及び直接的クローニング(図1C)。A. Bgl II部位、H1プロモーター、shRNA配列(又は有さず)及びHind III部位を有するpSUPERベクター(5)のBamH I/Kpn Iドメインを、EBVベクター(pBD149) (Biard DSら (32)) に挿入して、ベクターpBD631 (shRNA配列を含まず、無傷のBgl II及びHind III部位を含むクローニングベクター)又は所定の遺伝子に特異的なEBV-siRNAベクター(特定のshRNA配列を保持し、クローニングの間のBgl II部位を失った)を得る。
【0065】
これに対して、組み込みプラスミドを、EBVセグメントの欠失の後に得る。同様のストラテジを用いて、反対方向のsiRNAカセットを得る。FR:ファミリー・オブ・リピート配列;DS:Dyad対称要素;HygroR:ハイグロマイシンB耐性のための遺伝子;TKpr:HSVウイルスチミジンキナーゼプロモーター;TKpA+:HSV-TKポリアデニル化シグナル;pBrOri:pBR322複製起点;AMPr:細菌のβラクタマーゼ遺伝子。B. この図は、siRNA (KIN17)配列が反対方向に挿入されているベクターpBD632 (= pEBV-siK663R)を表す。
EBVカセット:EBNA-1+FR+DYAD
siRNAカセット:H1 + shRNA
細菌カセット:pBrOri + AmpR (=M1)
真核耐性カセット:TKプロモーター + Hygro (M2) + TKpA+
【0066】
C. 直接的クローニング:shRNAをコードするオリゴヌクレオチドを、Bgl II/Hind III制限酵素で予め消化したクローニングベクターpBD751 (pEBVsiR-LacZ')に直接導入する(図1C1)。挿入は、LacZ'フラグメントを置き換えることにより行う。ライゲーション及び「LB-アガー+アンピシリン+XGal/IPTG」培養培地上でのコンピテントな細菌の形質転換の後に、「白色」のアンピシリン耐性細菌クローンを選択する(図1C2)。6つの細菌クローン(又はより少ない)を単離し、増幅させ、種々の酵素消化によりそれらのプラスミドDNAの分析(例えばHind III/BamH I)により、クローニング効率が証明され、それは100%に近い(図1C3)。同様に、ピューロマイシン耐性を保持するベクターを、クローニングベクターpBD899 (pEBVsiR-LacZ'-Puro)から得ることができる。組み込みプラスミドは、EBVセグメントの欠失の後に得られる(Hpa I/BstE II消化/クレノーフィリング及びセルフライゲーション) (図1C4)。
【0067】
- 図2:HeLaヒト細胞を培養し、24時間後、それらが指数増殖している間にトランスフェクションすることによりsiRNA又は関連するベクターの効果を強化する。トランスフェクションは、3μlのリポフェクタミン(Lipofectamine) 2000 (Invitrogen)と、2μgのDNA (発現ベクター用)又は60 nM (最終濃度)の二重siRNAのいずれかとを用いて行う。3日後、細胞をトリプシン処理し、計数し、タンパク質を分析する。
【0068】
抗体:
抗-HSAkin17:腹水から精製した、モノクローナル抗体mAB K36及びmAB K58に対応するIgK36及びK58免疫グロブリン(Biardら (58))。
抗-Ku70:Neomarkers、クローンN3H10
抗-Ku80:Neomarkers、クローン111
抗-サイクリンA:Sigma、クローンCy-A1
抗-αチューブリン:Sigma、クローンB-5-1-2
抗-PCNA:Novo Castra、クローンPC10。
【0069】
- 図3:HeLaヒト細胞を3μlのリポフェクタミン2000 (Invitrogen)と、2μgのDNA又は60 nM (最終濃度)の二重siRNAのいずれかとでトランスフェクションする。トランスフェクションされたHeLa細胞を、250μg/mlのハイグロマイシンB (Invitrogen)の存在下に、3、10及び18日間培養する。
1:pEBV-siR (= pBD631)
2:pEBV-siK 663R (= pBD632)
3:pEBV-siK 663D (= pBD664)
4:pEBV-siD (= pBD665)
5:pEBV-si control R (= pBD650)。
【0070】
- 図4:トランスフェクションの48時間後、RKO細胞を、5000細胞/cm2の割合で、ハイグロマイシンB (500μg/ml)の存在下に播種した。
HSAkin17タンパク質の免疫組織化学的検出を、トランスフェクション後13日間行う(IgG K36;DAPI対比染色;倍率×50):
1:pHygro-si (pBD641)
2:pHygro-siK 663 (pBD642)
3:pEBV-siR (= pBD631)
4:pEBV-siK 663R (= pBD632)。
【0071】
- 図5は、12個の安定なXPAKDクローン(XPAについてサイレントになった- ノックダウン -細胞クローン)、及び2つの安定なXPCKDクローン(XPCについてサイレントになった- ノックダウン -細胞クローン)のウェスタンブロッティング分析を示す。
抗体:抗-XPA (Yang ZGら (53))及び抗-XPC (Volker M.ら (54))。
【0072】
- 図6は、トランスフェクション後15日の安定な個体群又は確立されたクローンでのXPA、XPC、XRCC4及びKIN17遺伝子の消滅のウェスタンブロッティングによる分析を示す。15、25又は97日間の連続培養の後に、細胞をトリプシン処理し、計数し、タンパク質を2×Laemmli溶解バッファー中で回収する。100000細胞に等しいタンパク質を、ウェスタンブロッティングにより分析する。
【0073】
- 図7は、UVC照射又は電離線照射(γ線)の後の種々のXPAKD及びXPCKD HeLaクローンのクローン形成性成長を示す。1 cm2当たり35細胞を、照射の24時間前に播種する。培養は、ハイグロマイシンBの存在下に14日間維持し、クローンを固定し、染色し、計数する(50細胞より多いクローンのみを考慮する)。各ポイントは、3つの培養ディッシュに相当する(±SD)。XPCKDクローンは、共通遺伝子系のXPAKDクローンよりもUVCに対する感受性がより大きい。
【0074】
- 図8は、XPAKD及びXPCKD HeLaクローンの、UVC線に対するそれらの感受性についての経時安定性のモニタリングを示す。トランスフェクション及び連続培養の後の種々の時間に、細胞をトリプシン処理し、培養に付し、照射し、図7の凡例で記載したようにしてクローン形成性成長の基準に従って分析する。
【0075】
- 図9は、XPAKDクローン又はコントロール細胞と比較した場合のXPCKD HeLaクローンの培養効率の違いを示し、成長におけるかなりの自然発生的な困難性を反映する。トランスフェクション及び連続培養の後の種々の時間に、細胞をトリプシン処理し、培養に付し、図7の凡例で記載したようにしてクローン形成性成長の基準に従って分析する。
【0076】
- 図10は、XPC遺伝子の発現の喪失が、高いゲノム不安定性と関連するという事実を示す。XPAKD、XPCKD細胞及びコントロール細胞を、同じ密度で培養に付し、20 J/m2 (UVC)で照射する。16時間後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し(20分)、0.5% Triton X100で透過にする(5分)。次いで、細胞をXPC (又はXPA、ここでは示さず)で標識し、DAPI (DNA-特異的標識)で対比染色する。XPC遺伝子の発現のほぼ完全な消滅が、2つのXPCKDクローン(クローン21及び24)で確認される。さらに、アポトーシス性の形態と見られる多くのものが、DAPI染色により示される(右のパネルの矢印)。
【0077】
- 図11:サイレントにされた遺伝子の回復による、用いられる系の可逆性の証明(XPA又はXPC)。163日間(XPCKD)及び80日間(XPAKD)安定なクローンは、選択マーカーM2 (ハイグロマイシンB)の存在下又は非存在下で10日間培養する。次いで、細胞を、ウェスタンブロッティング又は免疫細胞化学標識により分析する。XPC又はXPA遺伝子の発現の再現は、細胞の100%で観察される。よって、本発明に従ってpEBV-siRNAベクターにより数ヶ月間邪魔されていた表現型の完全な復帰が証明される。
【0078】
- 図12:サイレントにされた遺伝子の回復による、用いられる系の可逆性のさらなる証明(XPA又はXPC)。図11のものと同じ条件下で、完全に独立した実験において、表現型の完全な復帰がまた観察される。
【0079】
- 図13:培養培地からハイグロマイシンBを除去後10日間の本発明によるpEBV-siRNAベクターの完全な喪失。ハイグロマイシンBの存在下又は非存在下に10日間培養した後に、トータルDNA (ゲノム+エピソーム)をXPAKD及びXPCKDクローンから単離する。次いで、10μgをサザンブロッティングにより分析する。用いたプローブは、線状化され、ランダムプライミングにより32Pで標識された(Amersham) pBD634ベクター全体に相当する。以下のポイントを観察する:(1) XPCKD及びXPAKDクローンにおいて、pEBV siRNAベクターはエピソームの形で維持され、(2) それは細胞当たり低いコピー数(約10〜20)である。(3) ハイグロマイシンBの不在は、これらのベクターの迅速で完全な喪失を導く。
【0080】
- 図14 (HeLa細胞のクローン形成性の成長):XPA及びXPC遺伝子の発現の完全な復帰は、特徴的な表現型(UVCに対する感受性)の完全な回復と常に関連するわけではない:数ヶ月のXPC遺伝子の発現の喪失に付帯する影響の証明。細胞をトリプシン処理し、培養に付し、照射し、図7の凡例で記載するようなクローン形成性成長の基準に従って分析する。培養は、ハイグロマイシンBを用いて又は用いずに行う。復帰したXPAKD細胞は、UVCに対する通常の感受性に戻るが、XPCKD細胞は、XPCタンパク質の通常の含量に戻ったのに、UVCに対して非常に感受性のままであることが注目される。このことは、数ヶ月間のXPCタンパク質の不在が、開始時には構想できなかった遺伝子的損傷を導いたという事実を示す。
【0081】
- 図15:XPAKD及びXPCKD HeLaクローンでのUVC照射後の不完全なDNA修復(UDS又は予定外のDNA合成)。XPAKD (クローン3及び6)及びXPCKD (クローン21及び24)細胞を、カバーグラス上で培養に付し、UVC照射後のDNA修復を、以前に記載されたようにして(Sarasinら (55))、[3H]チミジンの取り込みにより監視する。
【0082】
- 図16:88日間培養にあるKIN17KDクローンのNHEJ (非相同性末端結合)修復の活性。Dazaら (56)から適合させたプロトコルに従って、NHEJ活性を保存しているタンパク質抽出物を、kin17タンパク質をもはや発現しない安定なクローンから、本発明によるベクターを用いて調製する。インビトロ修復試験においては、ブラント、5'突出又は3'突出末端を有するBam、Pst、Sma、Bam/Asp及びBstXとよばれる線状化されたプラスミドベクターを、その修復(再環化)を調べるためにサザンブロッティングにより分析する。特徴的なDNAバンドを図の右側に観察するが、ここで「P線状」は残存物に相当し、その他の全てのバンドは修復された生成物に相当する。この試験において、kin17タンパク質を欠損するRKOクローンにおいて、わずかにより大きいDNA修復が観察される。
【0083】
- 図17:組換えベクターの選択。(A):クローニングベクター(本発明によるベクターの作製のための中間物質) pBD751 (pEBV-LacZ'-hygro)の表示。(B):青色又は白色の細菌が成長しているLB-アガープレート。白色のコロニーを選択する(6又は7つが予め選択される)。選択されたコロニーは、組換えベクターを保持するものであり、ここでBglII/HindIII部位が境界をなすLacZ'配列は、合成された、標的遺伝子に特徴的な64ヌクレオチドのshRNA配列で置き換えられている。(C):4つのクローニング(ベクターpEBVsiRNA 1〜4)の分析。これらについて6つの細菌クローンを無作為に選択した。これらのクローンを、その日に液体培地(LB+アンピシリン)で増殖させ、それらのDNAを、通常の分子生物学的手法により精製した(DNAミニプレパレーション)。各クローンのDNAを、2つの制限酵素HindIII/BamHIで1時間、37℃にて消化した。アガロースゲル(1.5%)上での分析は、クローニング効率が100%に近いことを示す。組換えクローンは、次のようにして同定する。pBD751ベクターからのHindIII/BamHI制限酵素消化は、509ヌクレオチドのフラグメントである(T7-LacZ'配列に相当);ベクターが再環化しているならば、空のpBD631ベクターのように、245ヌクレオチドのフラグメントが得られる;一方、挿入断片(shRNA配列)が正しく組み込まれているならば、303ヌクレオチドのフラグメントが得られる(すでにクローン化されたpBD632ベクターのように)。今回の場合、24クローンのうち23個が完全な消化プロフィールを示すことが注目される。
【0084】
- 図18:上記で開示する条件下で、pBD743ベクター又はpBD694ベクターのいずれかでHeLa細胞をトランスフェクションした48時間後に、HeLa細胞を、5000細胞/cm2の割合でハイグロマイシン(250μg/ml)の存在下に培養する。DNA-PKcs及びXRCC4タンパク質の検出は、トランスフェクションの40日後にウェスタンブロッティングにより行う(抗-DNA-PKcs抗体 LabVision Neomarker #MS-423-PABX; 抗-XRCC4抗体 Abcam クローンab145)。DNA-PKcs及びXRCC4遺伝子の消滅が観察される;2つのベクターは、DNA-PKcs (pBD743ベクター)及びXRCC4 (pBD694ベクター)遺伝子の消滅に効果的である。
【0085】
- 図19:DNA-PKcs遺伝子についてサイレントなクローンの活性の分析(クローンBD743.1又はノックアウトについてはDNA-PKcsKD)。DNA-PKcs活性についての試験(プルダウンアッセイ)は、Finnieら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 320〜324, 1995)によりすでに出版されたプロトコルに従って行った。簡単に、DNA結合タンパク質を、5 mgのセルロース樹脂+二本鎖DNA (Amersham)で単離し、DNA PKcs活性を、4 nmolのDNA PKcsに特異的な基質(Promega)への[γ-32P]ATPの取り込みにより試験する。基質への放射活性ATPの取り込みは、液体シンチレーションにより測定する。レーン1〜4並びに7及び8は、種々のコントロールに相当する。
【0086】
(1) いずれのタンパク質も基質も含まないバッファーのみ(これは、この方法の放射活性バックグラウンドノイズである)。
(2) 基質なしの50 Uの精製DNA-PKcsタンパク質(Promega)。
(3) 基質と50 Uの精製DNA-PKcsタンパク質(Promega) (これはポジティブコントロールである)。
(4) タンパク質を含まないが基質を含むバッファー。
(5) 基質と25μgのコントロール系統の細胞抽出物(pBD650ベクターを保持) (これは、HeLa細胞におけるDNA-PKcs活性の基底のレベルである)。
(6) 基質と25μgのBD743.1クローンの細胞抽出物(DNA PKcsノックダウン) (これは、サイレントクローンの残存活性のレベルである:これは、この方法のバックグラウンドノイズのレベルにある)。
(7) 基質なしの25μgのコントロール系統の細胞抽出物(pBD650ベクターを保持) (ネガティブコントロール)。
(8) 基質なしの25μgのBD743.1クローンの細胞抽出物(DNA PKcsノックダウン) (ネガティブコントロール)。
【0087】
100日を超える培養の後に、酵素の活性は完全に消える(用いた方法に固有のバックグラウンドノイズに比べて)。
【0088】
- 図20:培養75日後のXRCC4KD及びDNA PKcsKDクローンのNHEJ (非相同性末端結合)修復の活性。図16に記載し、Dazaら (56)から適合させたプロトコルに従って、NHEJ活性を保存するタンパク質抽出物を、本発明によるベクターを保持する安定なクローンから調製する。インビトロ修復試験において、ブラント、5'突出又は3'突出末端を有するBam、Pst、Sma、Bam/Asp及びBstXとよばれる線状化プラスミドベクターは、それらの修復(再環化)を調べるために、サザンブロッティングにより分析する。特徴的なDNAバンドを図の右側に観察し、ここで、「P lin」は、残存物(「線状物質」)に相当し、その他の全てのバンドは修復生成物に相当する(Pcccは「スーパーコイル環状生成物」;Pocは「一方の鎖が開いている環状生成物」、;P2、P3及びPmはマルチマーである)。矢印で示すように、修復は、用いた基質に関わらずXRCC4KDクローン(クローン9)において全く存在せず(各基質についてウェル2)、修復は、DNA PKcsKDクローン(クローン1)について大きく変更される(各基質についてウェル3)。逆に、種々のその他のKIN17KDサイレントクローンは、pBD650ベクターを保持するコントロール系統に比べていずれの多様性も示さない。
【0089】
図18〜20は、DNA修復(NHEJ組換え)におけるDNA-PKcs及びXRCC4タンパク質の主要な活性の喪失に関連して、DNA-PKcs及びXRCC4タンパク質の長期間の消滅を示す点における本発明のベクターの利点を確かめる。
【0090】
- 図21:HeLa細胞におけるhRad50、p53、hHR23A及びhHR23B遺伝子の消滅後の免疫細胞化学(A及びB)又はウェスタンブロッティング(C)によるタンパク質の分析。HeLa細胞を、本発明によるベクターでトランスフェクションした:pBD872、pBD848、pBD804及びpBD805ベクター。トランスフェクションの2日後に、HeLa細胞をハイグロマイシンB (250μg/ml)の存在下に培養し、以前に記載したプロトコルに従って、記載する種々の時間に分析する。(A):hRad50タンパク質についての免疫細胞化学標識(Calbiochem 抗体 #552140)。hRad50に指向させたpBD872ベクターを12日間有するHeLa個体群。(B):p53タンパク質についての免疫細胞化学標識(抗体 DO-7ハイブリドーマ上清)。p53に指向させたpBD848ベクターを54日間有するHeLaクローン。(C) hHR23A及びhHR23Bタンパク質についてのウェスタンブロッティング(Dr Kaoru Sugasawa, Ph.D., Cellular Physiology Laboratory, RIKEN Discovery Research Institute, 2-1 Hirosawa, Wako, Saitama 351 0198, Japanにより寛大に寄贈された抗体)。それぞれhHR23B及びhHR23Aに指向させたpBD804及びpBD805ベクターを71日間有する細胞個体群及びクローン。
【0091】
- 図22:HeLa細胞における本発明によるベクターの短期及び中期(A)又は長期(B)の効率を示す、ウェスタンブロッティングによるタンパク質の分析。HeLa細胞のトランスフェクションのあとのXPA (pBD695ベクター)、XPC (pBD634)、XRCC4 (pBD694)及びKIN17 (pBD674)遺伝子の発現の消滅、及びハイグロマイシンB (250μg/ml)の存在下での培養の例。標的する各遺伝子について、異なるshRNA配列を保持する2〜4個のベクターを構築する。示してはいないが、その他の結果は、培養にあるクローンが長期間安定であることを示す:XRCC4:>120日、DNA-PKcs:>130日、XPA:>390日、Kin17:>1年、hHR23B:>150日、hHR23A:>150日、p53:>60日、XPC:>390日。
【0092】
【表1】

【0093】
これらの実施例は、本発明の主題を説明するためにのみ与えられ、限定を構成するものではないことが明確に理解されるべきである。
【0094】
実施例1:種々のベクターのクローニング
- shRNA配列
shRNA配列は、2つの同一の19-ヌクレオチドモチーフを反対方向に含み、これらは非相同性配列の9 bpのスペーサーアーム(TTCAAGAGA又はいずれのその他の配列)により分けられている。Bgl II (又はその他の)制限酵素のためのクローニング部位、それに続く転写開始配列(通常、CCG)を、この「センス」オリゴヌクレオチドの5'に導入する。RNA Pol IIIの終結シグナルを構成する6チミジンのフラグメントを、「アンチセンス」オリゴヌクレオチドの5'に導入する。Hind III (又はその他の)クローニング部位を、shRNA配列の3'末端に導入する。
【0095】
図1は、KIN17遺伝子のmRNAに対して設計されたsiRNAについてのそのような構築物を示し、Genbankアクセッション番号NM_012311でアクセス可能な配列に関する位置663〜681 (siK663/kin17)に相当する。
【0096】
- クローニングストラテジ
オリゴデオキシヌクレオチド(Eurogentec, Belgium)を用いるクローニングストラテジも図1Aに示す。センス及びアンチセンスのオリゴデオキシヌクレオチドを、突出Bgl II及びHind III末端と、二本鎖DNAを以下の様式で形成するようにハイブリダイズさせる:オリゴデオキシヌクレオチドを、オートクレーブした滅菌水(ヌクレアーゼフリー)に、3 mg/mlの濃度で採取する。1μlの各オリゴデオキシヌクレオチド(3 mg/ml)を回収し、48μlのバッファー(100 mM NaCl;50 mM Tris, pH 7.5)を加える。対形成を、サーモサイクラー(銘柄不詳のPCR装置)内で、以下のプログラムに従って行う:95℃で5分、次いで以下の温度で5分:90℃、85℃、80℃、75℃及び70℃。これに続いて、温度を37℃で30分間保持し、サンプルを回収するまで4℃に保持する。対形成したオリゴデオキシヌクレオチドは、クローニングまで-20℃にて保存する。
【0097】
- H1 RNAプロモーター
H1 RNAプロモーターをpSUPERベクター内にクローニングするために、以下のPCRプライマーを用いた(Brummelkampら 2002 (5)):
センス:5'-CCATGGAATTCGAACGCTGACGTC-3' (配列番号2)、及び
アンチセンス:5'-GCAAGCTTAGATCTGTGGTCTCATACAGAACTTATAAGATTCCC-3' (配列番号3)。
【0098】
対形成したオリゴヌクレオチド(shRNAをコードする)の直接的クローニングは、pBD751 (pEBVsiR-LacZ')又はpBD899 (pEBVsiR-LacZ'-Puro)ベクターを、図1Cに記載するようにして用いて得られる。pBD631 (pEBVsiR)ベクター、pBD884 (pEBVsiR-Puro)ベクター又はpBD665ベクター(pEBVsiD;siRNAカセットをpBD631ベクターのものと反対の方向で保持するベクター)を用いることもできる。
【0099】
同様に、間接的クローニングは、対形成したオリゴヌクレオチドをpSUPERベクターに導入し、siRNAカセット(H1プロモーター+shRNA)をKpn I/BamH I消化(New England Biolabs)により回収した後に、行うことができる。このsiRNAカセットは、次いでEBVベクター、例えばpBD149ベクターに導入する(10)。
いずれの場合においても、siRNAカセットは、配列決定により確認する。
【0100】
siRNAカセット(H1プロモーター+shRNAをコードする配列)の存在は、配列決定により確認し、Kpn I/BamH I酵素(New England Biolabs)での消化の後に回収し、pBD149ベクターに導入する(10)。shRNA配列を有さないH1プロモーターを有するpEBVベクターへの直接的クローニングも、同じストラテジ、すなわちpBD631ベクター(pBD665、siRNAカセットをpBD631ベクター又はpBD884ベクターのものとは反対の方向に有するベクター、表Iを参照)のBgl II/Hind III消化、続いて対形成したオリゴデオキシヌクレオチドの挿入に従うと効果的である。EBVベクターであるpBD631及びpBD665は、H1プロモーター及びBgl II/Hind III クローニング部位を、2つの可能な方向で保持する。つまり、クローニングは、pSUPERベクターを伴わずに、これらのpBD631及びpBD665ベクターにおいて直接行うことができる。
【0101】
- 組み込みベクターの構築
従来技術による組み込みプラスミドも、前記のプラスミドからのEBV配列の欠失の後に構築する(Hpa I/BstE II消化、クレノーフィリング及びセルフライゲーション)。ブラント末端を得ることを可能にするクレノーフィリングは、以下のプロトコルに従って行う:pEBV-siRNAベクターをHpa I、次いでBstE II制限酵素(New England Biolabs, 供給業者の推奨に従う)で消化した後に、1 mMの各dNTP (それぞれについて50μmの最終濃度)及び1単位のクレノー酵素(クレノー3'→5'エキソフラグメント;5 U/μL)を加える。サンプルを周囲温度にて15分間インキュベートし、反応を、75℃にて10分間の加熱により停止する。
用いたベクターを、以下の表Iに列挙する。
【0102】
【表2】

【0103】
コントロールプラスミドも構築する。
- siRNAなしでH1プロモーターを保持するプラスミド(上記のpBD631及びpBD665)、
- siRNAなしでH1プロモーター及びLacZ'クローニング系を保持するプラスミド(上記のpBD751及びpBD899)、
- ヘアピン構造の鎖の一方に2つのミスマッチを保持するshRNAの挿入後に得られるプラスミド(pBD650)。
【0104】
プラスミドDNAは、アニオン交換樹脂(Qiagen)を用いて精製し、トランスフェクションする。
XPA、XPC、HSAkin17、XRCC4、Ku70、DNAPK、Rad50、Rad51、Rad52、hHR23B、hHR23A及びp53についての種々のsiRNAを、siRNAについて認識されている規則に従って構築する(2、3、16〜18)。
【0105】
shRNA配列をコードする合成DNA配列を、Brummelkampら (5)により記載されるモデルから、転写開始部位として5'位にCCGを有し、終結シグナルとして3'位に6チミジンを有するように改変し、そして、該ベクターに存在するその他の要素の位置に対するそれらの位置の役割を確認するために、2つの可能な方向で、上記の本発明の空のベクターに導入する。
【0106】
表Iにおいて、各siRNA配列の名称は、以下のものに対応する。
si:siRNA
K:HSAkin17
XPA:XPA
XPC:XPC
番号:対応するcDNAについてのsiRNA配列での1番目のヌクレオチドの位置:例えば、KIN17について、「siK180」は、KIN17 cDNAの配列の180番目(及びそれに続く他の18)を最初のヌクレオチドとして認識する、KIN17 mRNAに対するsiRNA配列を意味する。
【0107】
siRNAは、文献における推奨に従って設計した。特に、構築物は、siRNA配列の熱力学的特徴を考慮に入れるか又は入れない(2、3、16、17)。
表IIには、用いたsiRNA配列のいくつかを記載する。
【0108】
【表3】

【0109】
実施例2:二重siRNA、組み込みプラスミド及びEBVセグメントを含むベクターの有効性の比較
- KIN17遺伝子発現の阻害
種々のタイプの構築物を用いて遺伝子発現の阻害の効率を比較可能にするために、二重siRNA (siK180及びsiK906)、及び関連するshRNAをコードするDNA配列を、siRNAについてはAmbionにより、そしてDNAについてはEurogentec又はProligoにより、それぞれ合成した。shRNAをコードするDNA配列を、上記のようにしてEBVベクターに導入して、siRNAカセットの方向に応じて、ベクターpBD674 (又はpBD678)及びpBD676 (又はpBD680)を得た。このアプローチは、pEBV-siRNAベクターの効率を、HeLa又はRKO細胞へのトランスフェクションの後に、図2の凡例について記載した条件の下で、それらが由来する二重siRNAと比較することを可能にする。
【0110】
トランスフェクションの3日後に、試験したその他の核タンパク質の改変なしに(図2)、HSAkin17タンパク質の量が約80〜90%減少することが観察されるので、このことは、二重siRNAのトランスフェクションの後に観察されることと同様にKIN17遺伝子の発現の消滅を生じる本発明によるpEBV-siRNAベクターの有効性を示す。このことは、その他のコントロールタンパク質のレベルが改変されないので、抑制の特異性も証明する。
【0111】
pEBVベクターの経時の維持及び安定性(ハイグロマイシンBの存在下での)は、試験した遺伝子、例えばここではKIN17遺伝子の発現の阻害を著しく改善する(図3)。同じことが、XPA又はXPC遺伝子についていえる(下記を参照)。
ベクターでのsiRNAカセットの方向は、発現阻害の程度に影響しない。
ベクターからのEBVセグメントの欠失は、文献(5を参照)に記載されるようなタイプの組み込みプラスミド(pHygro)の産生をもたらす。
【0112】
本発明によるpEBV-siRNAベクターの、組み込みタイプの現存するベクター(pHygro-siRNA)と比較した有効性は、2つの基準に従って証明できる:(1) クローン形成性培養条件下でトランスフェクションした14日後に選択されるクローンの数(ハイグロマイシンBの存在下に培養に付された細胞はほとんどない)、及び(2) 所定の遺伝子(例えば:KIN17)の発現について効率的にサイレントにされたクローンの細胞の数。得られた結果は、図4及び以下の表IIIに示す。
【0113】
【表4】

【0114】
トランスフェクションの48時間後に、150細胞(本発明によるベクターによりトランスフェクションされた)又は500細胞(pHygroベクターでトランスフェクションされた)/cm2 (すなわち、本発明によるpEBVベクターでトランスフェクションされた5000細胞、及びpHygroベクターでトランスフェクションされた15000細胞)を、ハイグロマイシンBの存在下で培養する。14日後に、クローンを固定し、染色し、計数する。各ポイントは、3つの培養ディッシュの平均に相当する。組み込みベクター(pHygro)の存在下では、文献で見られたことと同様に、14日後に成長しているクローンはほとんどなく、これらのクローンの50%を超えるものは、KIN17遺伝子の発現を阻害しない(図4.2)。
一方、本発明によるベクターでのトランスフェクションの後には多くのクローンが観察され、その全てがKIN17遺伝子の発現を阻害する(図4.4)。
【0115】
- XPA及びXPC
全ての結果は、10より多い独立した試験を集めたものに相当し、これらの実験の再現性を証明する。ほとんどの試験はHeLa細胞において行われ、次いでMRC5-V2及びRKO細胞について行われる。
【0116】
KIN17を用いて行われた試験に類似の試験を、HeLa、MRC5-V2及びRKO細胞においてXPA及びXPC遺伝子を用いて行った。得られた結果は図5〜10に示し、これらは、培養の260日を超えた後でさえもの遺伝子発現の長期持続性及び特異的な消滅についての本発明によるベクターの顕著な有効性を証明する。
【0117】
本発明によるベクターの有効性は、消滅されたクローンの100%までをトランスフェクション後48日で得ることができる(ハイグロマイシンBの存在下での培養)、クローンの無作為分析(この場合、無作為に選択しかつXPA遺伝子の発現が消滅されている12個のクローン)の間に証明される。このような結果は、組み込みベクター(pHygroタイプ)を用いては決して得られない。これらの実験において、XPCKDクローン(連続培養で113日間維持)は、コントロールである。さらに、分析したその他のタンパク質のレベルは変化しないことが観察され、消滅の特異性を証明する。
【0118】
- 特異性及び経時の安定性の証明
図6は、2つの同時の実験の結果を示し、一方は中期(連続培養の15日後)で分析され、他方は長期及び非常に長期(培養の25及び97日)で分析される。2つの場合において、標的タンパク質、例えばXPA、kin17、XRCC4又はXPCのレベルが95%を超えて減少し(交差試験(crossover trials))、本発明による構築物の非常に高い有効性及び特異性が観察される。
【0119】
これらの結果は、本発明による構築物が、選択されるshRNA配列に関係なく機能することを示す。
【0120】
特に有利には、トランスフェクションの15日後に(図6の左側)、細胞個体群(及び選択されなかったクローン、例えば同じ図の右側に示すもの)を分析することの問題がある。このことは、本発明のベクターの、全体及び個体群の細胞の全てで(異種の定義により)、標的遺伝子の発現レベルを低減することについての有効性を証明する。
【0121】
選択され培養に維持されたクローンは、XPA及びXPCタンパク質の発現の喪失に関連する主要な表現型に関して、すなわち、それらのUVC過敏性について定期的に分析される。図7は、このことを、いくつかのXPAKD又はXPCKDクローンを用いて証明する。逆に、電離線照射(γ線)の後には特異的感受性はほとんど又は全く観察されない。
【0122】
さらに、非特異的効果が存在しないことを証明するために、siRNA配列なしでH1プロモーターを2つの異なる方向で保持する空のベクター(pBD631及びpBD665)、並びにヘアピン構造の鎖の一方に2つのミスマッチを保持するshRNAをコードするオリゴデオキシヌクレオチドを含むpEBVベクター(pBD650)も、試験した。
これらの種々のベクターは、遺伝子の発現を改変しない(図2〜5)。
【0123】
- XPAKD及びXPCKD細胞の安定性
上記のように、培養で維持されているクローンの安定性を、それらのUVCに対する感受性について定期的に分析する。図8は、培養の250日後までもの(XPCKDクローン)、クローンの経時の過敏性を証明する。文献には、このような経時の安定性を達成するクローンは記載されていないことに注目すべきである。
【0124】
- 結論
本発明によるベクターは、研究した遺伝子の消滅を、95%を超える細胞において、トランスフェクションの2週間後に誘導するが、組み込みベクター(pHygro-siRNA)は、2週間後に50%未満の消滅された細胞を生じる。
単離されたクローンのほとんどは、標的細胞を発現しない(XPAについて100%)。
トランスフェクションの170日よりも後に、選択されたクローンは、標的遺伝子を非常に弱く発現し続ける。
標的タンパク質の喪失に関連する新たな表現型は、よって、維持される。
全ての結果は、種々の細胞系統(HeLa、RKO、MRC5-V2)において、本発明による種々のベクターを用いて、選択されるshRNA (siRNA)に関わらず再現可能である。
【0125】
実施例3:ヒト細胞におけるXPA及びXPC遺伝子発現の長期の阻害
本発明によるpEBVベクターは、長期発現阻害を得ることを可能にする(例えば図5及び6を参照)。
このことは、長期の培養後に核内で安定なエピソームとして存続する、選択されるプラスミドの特徴により説明できる。
これらのベクターのDNAの複製は、半保存的であり、dyad (DS)の周囲で開始され、かつゲノム複製と連動される。
【0126】
宿主の細胞因子は、EBV複製を助ける。特に、Orc2は、EBNA-1配列と緊密に相互作用し、EBV複製を細胞周期当たり1回りに限定し、このことにより、細胞当たりのベクターのコピー数が少なく、著しい安定性が存在することが説明される。
【0127】
EBNA-1の存在は、分裂中期にEBVエピソーム同士を結合させ、これが有糸分裂の間のそれらの核での保持及びそれらの分離の要因である。
さらに、本発明によるEBVベクターは、siRNA転写を厳密に制御する内因性の転写単位のように振舞うことができる。
これらのベクターを用いて、XPA及びXPC遺伝子の検出不可能なレベルの発現を示すクローンを単離することができる(図5及び6)。
【0128】
これらの種々のXPAKD及びXPCKDクローンを、XPCKDクローンについて260日を超えて、及びXPAKDクローンについて170日を超えて培養に維持することがすでに可能である。
MRC5-V2細胞において、XPAKD、XPCKD及びKIN17KDクローンは、60日を超えて培養されている。
【0129】
XPAKD及びXPCKD細胞のUV感受性の増加は、本発明によるベクターの機能的有効性を示す。
よって、HeLA、HeLa XPAKD及びHeLa XPCKD細胞の表現型を容易に比較することができる。実際に、これらの細胞は全て、同じ遺伝子情報を有し、本発明によるベクターによりコードされる小型shRNA配列のみが異なり、実質的に同質遺伝子系の(又は準同質遺伝子系(quasi-isogenic))系統と考えることができる。
【0130】
HeLa細胞におけるXPC遺伝子の阻害がUVC感受性を誘導するが(4 J/m2に対してコントロール細胞よりも19倍)、XPA遺伝子に対するsiRNAベクターを含む細胞は、UV感受性の増加がより小さい(4倍)。
結果を、図7に示す。
【0131】
XPAKD及びXPCKD細胞は、電離線照射に対していずれの著しい感受性を示さない。
一方、XPAKD細胞は、HeLa細胞(図9)及びその他の細胞(MRC5-V2)において、XPCKD細胞と比較して、比較的迅速な成長を示す。
このことは、XPAの部分的な喪失が、細胞の生理機能に大きくは影響しないことを示唆する。
一方、XPC遺伝子の阻害は、このようにして改変された細胞の成長において異常を導き、2、3のクローンのみが培養から生じる。
一方、いったん確立すると、後者のクローンは、著しく安定になる。
【0132】
- 阻害の影響の研究
XPCKD細胞は、自発的な及びUVC誘発の小核、及び多数のアポトーシス性細胞を(図10において矢印で示すように)、UVC照射の後に示し、このことはゲノム不安定性の増大を示す。
これらの結果は、以下の表IV及び図10にも示す。
【0133】
【表5】

【0134】
実施例4:選択圧の影響の研究:本発明によるモデルの利点
本発明によるプラスミドでトランスフェクションされた細胞を、選択圧に供する(実施例2、表IIIを参照)。
【0135】
本発明によるpEBV-siRNAベクターは、何ヶ月もエピソームの形で維持される(ゲノムDNAには組み込まれない)。よって、培養培地からハイグロマイシンBを除去することにより、細胞はこのベクターを失い、以前に消滅させた遺伝子(例えばXPC又はXPA)の発現が回復することが可能になるはずである。このことは、ベクターの多数のコピーがゲノムDNAに挿入される組み込みタイプの従来のベクターの場合には全く不可能であることが注目されるべきである。
【0136】
本発明のベクターの場合、行われた種々の実験により証明されるように、ハイグロマイシンBが除去されると、95〜100%の細胞が、ハイグロマイシンBの非存在下でたった7日間培養した後に、XPC又はXPAタンパク質を再発現する組織細胞化学標識により証明されるように、復帰が非常に迅速に起こる(平均7〜10日)。このことは、EBV-siRNAベクターの喪失が、培養の全ての細胞において同時に起こることを証明する。この結果は、トータルDNA (ゲノム+エピソーム)のサザンブロッティングによる分析により証明される(図13)。図13は、以下のポイントを証明する。
(1) XPCKD及びXPAKDクローンにおいて、pEBV-siRNAベクターは明らかにエピソームの形で維持されている、
(2) 細胞当たり低いコピー数で(約10)、
(3) ハイグロマイシンBが10日間存在しないと、これらのベクターが迅速かつ完全に失われ、それにより、免疫細胞化学により観察されたXPC又はXPA遺伝子発現の迅速な回復が説明される。
【0137】
この完全で迅速な復帰は、所定の遺伝子の発現の喪失が、予期せぬ付帯的な効果を誘導できることを証明することを可能にする。
【0138】
これは、開始時には予見できなかった、siRNA配列の効果の並行する結果を試験する初めての手段である。これは、あらゆるところですでに決定されている非特異的標的(標的外(off targets))を証明する問題ではなく、所定の遺伝子の発現の喪失の真の特異的な付帯的な効果を決定するという問題である。実際問題として、このことは、本発明によるベクターを用いることにより、より具体的には、復帰が出発表現型全体の回復を可能にしないXPC遺伝子の消滅について証明される。
【0139】
この特性は、siRNAのスクリーニングのための微細な研究の場合に出発時の表現型を回復するため、及び標的遺伝子の発現の阻害の可能な副作用をより明確に特定するために特に用いることができる。
【0140】
実施例5:必須遺伝子の発現の喪失(ほぼ完全な)によってのみ誘導される同質遺伝子系クローン(又は個体群)におけるインビトロでの活性多タンパク質(multi-protein)複合体の活性の分析:本発明による細胞モデル(本発明による適切なベクターで改変された細胞)の使用
数ヶ月の培養後に、そして凍結/融解工程の後でさえも非常に安定なクローンを得ることにより、多くの細胞(ポイント当たり>1〜2×107細胞)を必要とする実験を行うために充分な生物材料を得ることが可能になる。特に、かつ初めて、本発明によるベクターを用いることによりある遺伝子(この実施例ではKIN17)についてサイレントにされたクローンの細胞を増幅し、インビトロでそのDNA修復活性を分析することが可能である。
【0141】
図16において、予備的な試験は、このアプローチを行うことの可能性を示す。このアプローチは、莫大な数の細胞のトランスフェクションが必要であり(非常に高価)、かつ安定なクローンを得ることが非常に困難であるという意味において、二重siRNA又は組み込みベクターの一過性のトランスフェクションの後には不可能であることが注目される。
【0142】
よって、本発明によるベクターの使用は、初めて、活性な多タンパク質複合体の活性を、インビトロで、必須遺伝子の発現の喪失(ほぼ完全な)によってのみ誘導される同質遺伝子系のクローン(又は個体群)において分析することを可能にする。実際に、本発明のベクターを用いると、このことは迅速に、例えばトランスフェクションの15日後に、すなわち選択の下で、非常に高い程度の細胞個体群の均質性がすでに観察されたときに行うことができる。これらの動態は、もちろん、「消滅」させることが所望される遺伝子に依存し、例えばこのことは、XPA (上記のサイレンシングの例)の場合にトランスフェクション及びハイグロマイシンB選択の後に非常に迅速に行うことができる。このアプローチは、もちろん、クローンの確立の後に行うことができる。なぜなら、それらが安定だからである(例えばXPA、XPC又はKIN17)。
【0143】
実施例6:本発明によるベクター
1. クローニングベクターの構築
- ベクターpBD751:p205GTIベクターの「プロモーターT7-LacZ'」フラグメント(Staryら, J Virol. 1989 Sep;63(9):3837〜43.)を、PCRにより以下のプライマーを用いて増幅し、
5' GGT ACC AGA TCT GAT CCG AAA TTA 3' (配列番号16) (Bgl II部位を含む)及び5' GTC GAC AAG CTT TTG ATC AGA TCG GTG CGG (配列番号17) (Hind III部位を含む)、Bgl II/Hind IIIで消化して、Bgl II/ Hind IIIで消化されたpBD631ベクターに導入した。
【0144】
- ベクターpBD889:「PuroR+SV40プロモーター」フラグメントは、SV40プロモーターとピューロマイシン耐性遺伝子(PuroR)との間に位置するHind III部位をHind III 消化及びクレノーフラグメントでの処理、続いて再ライゲーションにより欠失させたDe la Lunaら(Gene 62, 121-126, 1988, Efficient transformation of mammalian cells with constructs containing a puromycin-resistance marker)のベクターに由来する。得られたベクターはpBD881と称する。pBD881ベクターは、PuroRフラグメントを除去するためにBamH I/EcoR I制限酵素で消化し、これを、pBD152とよばれ、上記のベクターpBD149に由来するEBVベクターに導入した。このベクターは、EBV配列全体(EBNA-1+複製起点)を含む。この新しいベクター(pBD883又はpEBV-Puro)を、EBV部分、細菌部分及びSV40-PuroRプロモーター配列を含むフラグメントを得るために、EcoR V/BamH I制限酵素で消化した。該フラグメントは、pBD650のEcoR V/BamH Iフラグメントとライゲーションして、コントロールベクターpBD886又はpEBVsiControlR-Puroを作製した。最後に、pBD886ベクターを、pBD751ベクターのH1プロモーター-T7-LacZ'クローニングフラグメントを導入するために、Hind III/BamH I制限酵素で消化した。この新しいベクターを、pBD899又はpEBVsiR-LacZ'-Puroとよぶ。
【0145】
2. pBD884空のベクターの構築(pEBVsiR-Puro)
pBD884ベクターは、pBD883ベクターのSpe I/BamH I消化(EBV-Puro部分の精製)、及びpBD631ベクターのSpe I/BamH Iフラグメントとのライゲーション(H1-Bgl II/Hind IIIクローニング部位)により得た。pBD884ベクターは、よって、pBD631ベクターのホモログであり、前者はハイグロマイシンB耐性を有し、後者はピューロマイシン耐性を有する。
【0146】
3. 結果
図17は、これらのクローニングベクターの利点を示す。オリゴヌクレオチド(64マー)をpBD751 (又はpBD899)ベクターに挿入することは、100%に近い効率で得られ、それにより分析される細菌クローンの数を著しく減少させる。通常、3〜6個の細菌クローン(「白色」コロニー)を無作為に採取し、そのプラスミドDNAを単離して分析する。ほとんどの場合、これらのクローンは組換えプラスミドを保持する(図17C)。クローニング効率は、非常に再現性がある。
【0147】
実施例7:DNA-PKcs及びXRCC4遺伝子の消滅
天然には、XRCC4タンパク質のヒト変異体は存在しない。初めて、XRCC4タンパク質の発現のレベルが非常に低い(通常のレベルの約10%)「変異体」クローンを得ることが記載される。並行して、NHEJ及びV(D)J組換え経路におけるXRCC4のパートナーであるDNA PKcsタンパク質が、用いた方法(免疫細胞化学標識、ウェスタンブロッティング)ではもはや検出できないクローンも記載される。これらのクローンは、培養で130日を超えて維持される。pBD694及びpBD743ベクターが存在するHeLa細胞でのこれら2つのタンパク質のレベルの非常に大きな低減と並行して、これらのタンパク質の特異的活性の喪失が証明される。図19は、DNA PKcsKDクローンにおけるDNA PKcs活性の完全な喪失を示し、図20は、NHEJ組換えに特異的なインビトロ試験でのXRCC4KD及びDNA PKcsKDクローンのDNA修復活性の喪失を示す。
【0148】
図18〜20は、よって、対応する生物活性の喪失を伴うDNA-PKcs及びXRCC4タンパク質の非常に長期間の消滅におけるこれらのベクターの利点を示す。
【0149】
実施例8:p53、hRad50、hHR23A及びhHR23B遺伝子の消滅
興味のあるその他の遺伝子、例えばp53、hRad50、hHR23A及びhHR23B遺伝子を、本発明によるpEBVsiRNAベクターの標的として研究した。図21は、本発明によるこれらの遺伝子に特異的なpEBVsiRNAベクターがHeLa細胞においても非常に効率的であることを示す。よって、標的遺伝子の性質については、いずれの限定もないと考えられる。
【0150】
実施例9:遺伝子発現の短期、中期及び長期の消滅
図22は、一斉に行った種々の実験をまとめ、HeLa細胞のトランスフェクション(及びハイグロマイシンB選択)の後の種々の時間での、本発明によるpEBVsiRNAベクターの、特定の遺伝子(この場合、XPA、KIN17、XPC、XRCC4)の発現を消滅させる効果を示す。これらのベクターは、よって、短期、中期及び非常に長期で非常に効果的である。
【0151】
【表6】

【0152】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】siRNAベクターの遺伝子地図。
【図2】HeLaヒト細胞を培養し、24時間後、それらが指数増殖している間にトランスフェクションすることによりsiRNA又は関連するベクターの効果を強化する。
【図3】HeLaヒト細胞を3μlのリポフェクタミン2000 (Invitrogen)と、2μgのDNA又は60 nM (最終濃度)の二重siRNAのいずれかとでトランスフェクションする。
【図4】HSAkin17タンパク質の免疫組織化学的検出。
【図5】12個の安定なXPAKDクローン(XPAについてサイレントになった- ノックダウン -細胞クローン)、及び2つの安定なXPCKDクローン(XPCについてサイレントになった- ノックダウン -細胞クローン)のウェスタンブロッティング分析を示す。
【図6】トランスフェクション後15日の安定な個体群又は確立されたクローンでのXPA、XPC、XRCC4及びKIN17遺伝子の消滅のウェスタンブロッティングによる分析を示す。
【図7】UVC照射又は電離線照射(γ線)の後の種々のXPAKD及びXPCKD HeLaクローンのクローン形成性成長を示す。
【図8】XPAKD及びXPCKD HeLaクローンの、UVC線に対するそれらの感受性についての経時安定性のモニタリングを示す。
【図9】XPAKDクローン又はコントロール細胞と比較した場合のXPCKD HeLaクローンの培養効率の違いを示す。
【図10】XPC遺伝子の発現の喪失が、高いゲノム不安定性と関連するという事実を示す。
【図11】サイレントにされた遺伝子の回復による、用いられる系の可逆性の証明(XPA又はXPC)。
【図12】サイレントにされた遺伝子の回復による、用いられる系の可逆性のさらなる証明(XPA又はXPC)。
【図13】培養培地からハイグロマイシンBを除去後10日間の本発明によるpEBV-siRNAベクターの完全な喪失。
【図14】数ヶ月のXPC遺伝子の発現の喪失に付帯する影響の証明。
【図15】XPAKD及びXPCKD HeLaクローンでのUVC照射後の不完全なDNA修復(UDS又は予定外のDNA合成)。
【図16】88日間培養にあるKIN17KDクローンのNHEJ (非相同性末端結合)修復の活性。
【図17】組換えベクターの選択。
【図18】pBD743ベクター又はpBD694ベクターのいずれかでHeLa細胞をトランスフェクションした48時間後に、HeLa細胞を、5000細胞/cm2の割合でハイグロマイシン(250μg/ml)の存在下に培養する。
【図19】DNA-PKcs遺伝子についてサイレントなクローンの活性の分析(クローンBD743.1又はノックアウトについてはDNA-PKcsKD)。
【図20】培養75日後のXRCC4KD及びDNA PKcsKDクローンのNHEJ (非相同性末端結合)修復の活性。
【図21】HeLa細胞におけるhRad50、p53、hHR23A及びhHR23B遺伝子の消滅後の免疫細胞化学(A及びB)又はウェスタンブロッティング(C)によるタンパク質の分析。
【図22】HeLa細胞における本発明によるベクターの短期及び中期(A)又は長期(B)の効率を示す、ウェスタンブロッティングによるタンパク質の分析。
【図1A】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 細菌の複製起点と細菌の選択マーカーM1とを含む細菌カセット;
(2) 真核細胞、特に哺乳動物細胞のための選択マーカーM2を適切なプロモーターの制御下に含む真核細胞での選択のためのカセット;
(3) エプスタイン−バーウイルスの核抗原1 (EBNA-1)の少なくとも1つのフラグメントと、ファミリー・オブ・リピート(FR)の少なくとも1つのフラグメントと、2回回転対称(DYAD)領域の少なくとも1つのフラグメントとを含むEBVカセット;及び
(4) 阻害又は消滅させる標的遺伝子に対応するsiRNAをコードする少なくとも1つの領域を、哺乳動物細胞内でsiRNAを転写可能な少なくとも1つのプロモーターと転写ターミネーターとを含む哺乳動物細胞内での転写のための調節要素の制御下に含むsiRNA転写カセット
を含むことを特徴とする、哺乳動物細胞内で標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させることができるsiRNA発現ベクター。
【請求項2】
前記細菌カセット(1)が、抗生物質耐性マーカー及び栄養要求性マーカーからなる群より選択される細菌の選択マーカーM1を含むことを特徴とする請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記真核細胞での選択のためのカセット(2)が、抗生物質耐性マーカーからなる群より選択される真核選択マーカーM2を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のベクター。
【請求項4】
前記選択マーカーM2が、HSVチミジンキナーゼプロモーター及びSV40プロモーターからなる群より選択される適切なプロモーターの制御下にあることを特徴とする請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
前記哺乳動物細胞内でsiRNAを転写可能なプロモーターが、RNAポリメラーゼIII (タイプ1、2又は3)プロモーター又はRNAポリメラーゼIIにより認識されるプロモーター、例えばヒトCMV IEエンハンサー/プロモーター(サイトメガロウイルス最初期遺伝子エンハンサー/プロモーター)若しくは改変されたCMVプロモーターからなる群より選択されるプロモーターであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記RNAポリメラーゼIIIプロモーターが、H1 RNA、U6 snRNA、7SK RNA、5S、アデノウイルスVA1、Vault、RNAテロメラーゼ及びtRNA (Val、Met又はLys3)プロモーターからなる群より選択されることを特徴とする請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記転写カセットが、前記ベクターのクローニングのための選択系も含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記選択系が、原核プロモーターとそれに続くshRNA配列の挿入の間の選択の基準を制定するLacZ遺伝子のアルファフラグメント(LacZ'又はLacZアルファ)とを含むことを特徴とする請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターで改変されたことを特徴とする、好ましくは哺乳動物細胞である真核細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の改変された細胞を含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項11】
遺伝子の発現を阻害又は消滅させるための、請求項1〜8のいずれか1つに記載のベクター又は請求項9に記載の細胞の使用。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
以下の工程:
(a0) 少なくとも1つの哺乳動物細胞を、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターでトランスフェクションし、
(b0) 前記細胞を、真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地中で培養し、
(c0) 前記耐性な細胞の表現型を、トランスフェクションされていない細胞の表現型との比較により分析する
を含むことを特徴とする、標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させることができるsiRNAの活性を評価する方法。
【請求項14】
(a1) 同じ標的遺伝子を有する種々のsiRNAが挿入された請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターのライブラリを調製し、
(b1) 細胞を、前記ライブラリの前記ベクターでトランスフェクションし、ここで各細胞又は各細胞の組は異なるベクターでトランスフェクションされ、
(c1) 前記細胞を、真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地中で培養し、
(d1) 前記耐性な細胞の種々の表現型を分析する
ことを含む、標的遺伝子の発現を阻害又は消滅させるように設計されたsiRNAの集合の活性を評価する方法。
【請求項15】
表現型を分析する前記工程(c0)又は工程(d1)が、標的遺伝子の発現の検出及び/又は定量を含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(c0)又は工程(d1)の後に、選択マーカーM2に耐性な細胞を選択するための要素を欠く培地で前記細胞を培養し、そして出発の表現型の回復を評価する工程(c'0)又は工程(d'1)も含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
(a2) 少なくとも1つの哺乳動物細胞を、疾患を模倣可能なsiRNAを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターでトランスフェクションすることにより、疾患を研究するためのモデルを作製し、
(b2) 前記細胞を、真核選択マーカーM2に耐性な細胞を選択可能な培地中で培養し、
(c2) 前記耐性な細胞の表現型を、トランスフェクション前の前記細胞の表現型との比較により分析し、
(d2) 培養培地に、スクリーニングされる物質又は物質のライブラリを加え、
(e2) 前記細胞の表現型の改変を評価し、
(f2) 正常な表現型を回復し、よって前記疾患を治療可能な分子を選択する
ことを含む、タンパク質を発現する遺伝子の阻害又は消滅を含む疾患を治療可能な分子をスクリーニングする方法。
【請求項18】
siRNAの全体的な活性を評価するための請求項9に記載の細胞の使用。
【請求項19】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の少なくとも1つのベクター又は請求項9に記載の細胞と、標的遺伝子の発現を検出及び/又は定量するための手段とを含むことを特徴とするキット。
【請求項20】
(1) 請求項1又は2で定義される細菌の複製起点と細菌の選択マーカーM1とを含む細菌カセット、
(2) 請求項1、3及び4のいずれか1項で定義される、真核細胞、特に哺乳動物細胞のための選択マーカーM2を、適切なプロモーターの制御下に含む真核細胞での選択のためのカセット、
(3) エプスタイン−バーウイルスの核抗原1 (EBNA-1)の少なくとも1つのフラグメントと、ファミリー・オブ・リピート(FR)の少なくとも1つのフラグメントと、2回回転対称(DYAD)領域の少なくとも1つのフラグメントとを含むEBVカセット;及び
(4) H1プロモーター、及び2つの可能な方向の1つで選択される2つのクローニング部位
を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターを作製するための中間物質。
【請求項21】
選択される前記2つのクローニング部位が、Bgl II及びHind IIIであることを特徴とする請求項20に記載の中間物質。
【請求項22】
前記H1プロモーターと前記クローニング部位とが直列方向にあり、前記選択マーカーM2がハイグロマイシンであり、前記中間物質がpBD665又はpEBV-siDとよばれることを特徴とする請求項21に記載の中間物質。
【請求項23】
前記H1プロモーターと前記クローニング部位とが逆方向にあり、前記選択マーカーM2がハイグロマイシンであり、前記中間物質がpBD631又はpEBV-siRとよばれることを特徴とする請求項21に記載の中間物質。
【請求項24】
原核プロモータ(T7)とそれに続くLacZ遺伝子のアルファフラグメント(LacZ')とを含むクローニングのための選択系を含むことを特徴とする請求項20又は21に記載の中間物質。
【請求項25】
前記H1プロモーターと前記クローニング部位とが逆(又は反対)方向にあり、前記選択マーカーM2がハイグロマイシンであり、前記中間物質がpBD751又はpEBVsiR-LacZ' (又はpEBVsiR-LacZ'-Hygro)とよばれることを特徴とする請求項24に記載の中間物質。
【請求項26】
前記H1プロモーターと前記クローニング部位とが逆(又は反対)方向にあり、前記選択マーカーM2がピューロマイシンであり、前記中間物質がpBD899又はpEBVsiR-LacZ'-Puroとよばれることを特徴とする請求項21に記載の中間物質。
【請求項27】
- 請求項20〜26のいずれか1項に記載の中間物質を調製し、
- 2つの選択されるクローニング部位に適切なshRNAをコードするDNA配列を挿入する
ことを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベクターを作製する方法。

【図5】
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【図12】
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【図16】
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【図21】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【公表番号】特表2008−529513(P2008−529513A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554604(P2007−554604)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000330
【国際公開番号】WO2006/085016
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【Fターム(参考)】